実家の母が入院することになって…。母が飼っている14歳の柴犬、どうしたらいいんだろう。私はマンションでペット不可だし、兄も転勤族で。
それ、いま本当に多い相談だよ。しかも「入院してから慌てて考える」のが一番つらい。今日は、いま起きていることへの対処と、まだ元気なうちにできる準備の両方を整理していこう。
「親が飼えなくなったペット」は、いま最も見えにくい介護問題
高齢の親にとって、ペットはかけがえのない存在です。会話の相手になり、散歩という運動習慣を作り、生活にリズムを与えてくれます。実際、ペットとの暮らしが高齢者の孤立を防ぎ、心身の健康に良い影響を与えることは広く知られています。
ところが、その関係はある日突然、前触れもなく終わります。転倒による骨折、脳梗塞、認知症の進行、施設入所——きっかけは様々ですが、共通しているのは「準備する時間がない」ことです。
そして残されたペット自身も高齢であることが多い。10歳を超えた犬や猫は、新しい飼い主が見つかりにくく、環境の変化によるストレスにも弱い。親の介護とペットの介護が同時に降ってくる——これがこの問題の本質です。
この記事では、(1)すでに飼えなくなってしまった場合の現実的な選択肢、(2)まだ親が元気なうちに準備しておくべきこと、の順で解説します。お急ぎの方は次の章から読んでください。
【緊急時】いま飼えなくなった場合の5つの選択肢
選択肢1:親族・知人が引き取る
もっとも望ましい形です。ペットにとって「知っている人」がいる環境は、ストレスが桁違いに小さくなります。
ただし、感情で即決しないでください。引き取る側にとっては、今後10年前後にわたる時間的・経済的な負担が発生します。犬猫の生涯費用は決して小さくなく、高齢のペットであれば医療費の比重が一気に上がります。「誰が費用を出すのか」を最初に文書で決めておくことが、後の親族トラブルを防ぐ最大のポイントです。
| メリット | ペットのストレスが最小。様子を見に行ける |
|---|---|
| 費用 | 医療費が中心。年間20万〜35万円が目安 |
| 決めるべきこと | 費用負担者・通院の担当・万一のときの判断権限 |
| 注意 | 口約束にしない。簡単でも書面に残す |
選択肢2:老犬ホーム・老猫ホーム(ペット介護施設)
高齢ペットや介護が必要なペットを、有料で終生預かる施設です。近年、飼い主の高齢化にともなって全国的に増えています。
料金体系は大きく2つ。終生預託(一時金でまとめて支払う)と月額制です。終生預託は小型犬で数十万円〜、大型犬になるとさらに高額になります。月額制は初期費用が抑えられる一方、長生きするほど総額は膨らみます。
施設選びで必ず確認したいのは次の点です。
- 獣医師との連携体制(提携動物病院の有無、往診頻度)
- 面会が自由にできるか(親が会いに行けることは非常に大きい)
- 看取りの方針(延命治療をどこまで行うか、立ち会えるか)
- スタッフ1人あたりの頭数(多すぎる施設は目が届かない)
- 運営会社の財務的な安定性(終生預託は施設が存続することが前提)
メリット
- プロによる24時間のケアを受けられる
- 医療が必要な高齢ペットでも受け入れ可能
- 家族が遠方でも預けられる
- 面会可能な施設なら親が会いに行ける
注意点
- 費用が高額。終生預託は数十万円〜
- 施設の質に大きな差がある
- ペットにとって環境変化のストレスは大きい
- 運営が続くかどうかのリスクがある
こんなご家庭に向いています
- 引き取り手がどうしても見つからないご家庭
- ペットに持病があり医療ケアが必要な場合
- 親が施設に入所し、面会だけは続けたい場合
選択肢3:里親を探す(譲渡)
新しい飼い主を探す方法です。里親募集サイト、動物保護団体、かかりつけの動物病院の掲示板などが窓口になります。
正直にお伝えすると、高齢のペットの里親探しは簡単ではありません。若い個体に比べて希望者が圧倒的に少なく、持病があればなおさらです。それでも「シニア犬・シニア猫を専門に受け入れる」団体や、同じくシニア世代の里親希望者は確実に存在します。焦らず、条件を正直に開示して探すことが結局は近道です。
譲渡の際に必ずやるべきこと:
- 持病・服薬・アレルギーをすべて開示する(隠すと必ず後で問題になります)
- ワクチン接種歴・健康診断結果を書面で渡す
- 譲渡誓約書を交わす(転売防止、飼育放棄の防止)
- 相手の飼育環境を確認する(可能なら訪問する)
注意点
- 高齢・持病ありは引き取り手が見つかりにくい
- 時間がかかる(数か月に及ぶことも)
- 悪質な引き取り屋に注意が必要
- ペットにとって環境変化のストレスは大きい
選択肢4:ペット可の高齢者住宅・施設に一緒に入る
数はまだ少ないものの、ペットと一緒に入居できる有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅が全国に存在します。「別れさせない」という点で、親にとってもペットにとっても最善の選択肢になり得ます。
ただし条件は厳しめです。多くの施設で「自分でペットの世話ができること」が入居要件になっており、親の介護度が上がると同居が続けられなくなる場合があります。また、飼い主に何かあったときにペットをどうするかを、入居契約とは別に取り決めておく必要があります。
メリット
- 親とペットが離れずに済む
- 親の精神的な安定に大きく寄与する
- 施設内に同じ価値観の入居者がいて交流が生まれやすい
注意点
- 施設数が少なく、選択肢が限られる
- 費用は通常の施設より高めの傾向
- 自力で世話ができることが条件の場合が多い
- 介護度が上がると同居継続が難しくなる
こんなご家庭に向いています
- 親がまだ自立して生活できる段階で住み替えを検討している場合
- ペットと離れることが親の心身に大きな負担になる場合
選択肢5:一時的に預ける(ペットホテル・預かりサービス)
入院が数週間で済む見込みなら、無理に手放す必要はありません。ペットホテル、動物病院の預かり、ペットシッターの利用で乗り切れます。
重要なのは「一時的なつもりが長期化する」パターンを避けることです。退院の見通しが立たない段階に入ったら、早めに次の手を考え始めてください。判断の目安は「入院・入所が3か月を超えそうか」です。
選択肢はあるんだね。でも、どれも急に決めるのは難しそう…
そうなんだ。だからここからが本題。まだ元気なうちに決めておけることが、実はたくさんあるんだよ。
【予防編】元気なうちに親と話しておきたい4つのこと
1. 「もしものとき、この子をどうしたいか」を聞いておく
もっとも重要で、もっとも後回しにされる話です。親自身が「自分に何かあったらこの子はどうなるのか」を一番心配していることは珍しくありません。子どもの側から切り出すことで、むしろ親が安心するケースが多いのです。
切り出し方のコツは、親を主語にしないこと。「お母さんが倒れたら」ではなく、「この子が長生きしたときに、どうするのが一番いいと思う?」と、ペットを主語にすると話しやすくなります。
聞いておきたい内容:
| 引き取り先の希望 | 誰に託したいか。第2候補まで |
|---|---|
| 医療方針 | 高額な治療をどこまで望むか。延命の考え方 |
| 費用の準備 | ペットのために残せるお金があるか |
| かかりつけ医 | 病院名・連絡先・持病・常用薬 |
| 生活習慣 | フードの銘柄、散歩の時間、苦手なもの |
2. 「ペットの引き継ぎノート」を作る
親が突然入院したとき、引き取る側が最も困るのが情報がないことです。フードの銘柄が分からない、薬の種類が分からない、かかりつけ医が分からない——これだけでペットの体調は簡単に崩れます。
A4用紙1枚で構いません。次の項目を書いて、冷蔵庫や玄関など誰でも見つかる場所に貼っておいてください。
- 名前・生年月日(推定可)・性別・避妊去勢の有無
- マイクロチップ番号・鑑札番号
- かかりつけ動物病院の名前と電話番号
- 持病、常用薬(薬の名前と1日の回数)、アレルギー
- フードの銘柄と1日の量、おやつの可否
- 散歩の時間と苦手なもの(雷、他の犬、掃除機など)
- ペット保険の加入有無と証券番号
- もしものときに連絡してほしい人
この1枚が、いちばん確実な備えです
ペット信託のような制度も有効ですが、まず作るべきは「引き継ぎノート」です。費用はゼロ、作成時間は30分。親御さんに会ったとき、一緒に書いてみてください。
3. お金の手当てを考える(ペット信託・負担付遺贈)
「引き取ってくれる人はいる。でも費用を負担させるのは申し訳ない」——このために用意された法的な仕組みがあります。
ペット信託(民事信託・家族信託の一種)
親(委託者)が財産の一部を信頼できる人(受託者)に託し、その資金をペットの飼育費として使ってもらう仕組みです。ポイントは、信託した財産は他の目的に使えないということ。相続財産とは切り離されるため、「ペットのために残したお金が別の用途に消える」ことを防げます。
注意点として、法律上ペット自身は受益者になれないため、実際に飼育する人を受益者に設定します。また、受託者と受益者が同一人物だと信託が1年で終了してしまうルールがあるため、役割を分けて設計する必要があります。
| 契約書作成費用 | おおむね15万〜30万円程度 |
|---|---|
| 信託設計(全体) | 50万〜100万円程度になるケースも |
| 信託監督人を置く場合 | 月額1万〜2万円程度 |
| 信託する資金の目安 | 猫:年17万〜20万円/小型犬:年20万〜25万円/大型犬:年30万〜35万円 × 想定余命 |
| 相談先 | 弁護士・司法書士・家族信託の専門家 |
費用を見て「高い」と感じるかもしれません。実際、少額の資金しかない場合は費用倒れになります。信託が現実的なのは、まとまった資金を確実にペットのために使いたい場合です。
メリット
- 財産がペットの飼育にのみ使われることを担保できる
- 飼い主の死後も飼育費が確保される
- 飼育環境や方針を細かく指定できる
- ペットが亡くなった後の残余財産の行き先も決められる
注意点
- 契約設計に数十万円の費用がかかる
- 必要額をまとめて用意する必要がある
- 対応できる専門家がまだ少ない
- 他の相続人の遺留分に配慮が必要
- 受託者の負担が重く、引き受け手を見つけにくい
負担付遺贈・負担付死因贈与
「ペットの世話をすることを条件に、財産を渡す」という遺言・契約の形です。信託より手軽で費用も抑えられますが、決定的な弱点があります。渡した財産は受け取った人が自由に使えるのです。ペットの世話をしなかった場合に取り消しを求めることは制度上可能ですが、亡くなった後に誰がそれを監視するのか、という現実的な問題が残ります。
| 方式 | 費用 | 確実性 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| ペット信託 | 高い(数十万円〜) | 高い(用途を限定できる) | まとまった資金があり確実性を最優先したい |
| 負担付遺贈 | 低い(遺言書作成のみ) | 中(使途は縛れない) | 信頼できる相手が明確にいる |
| 引き取り手と書面で合意 | ほぼ無料 | 低〜中 | 親族間で費用も含め話がついている |
| 老犬ホーム終生預託 | 高い(数十万円〜) | 高い(施設が存続する限り) | 引き取り手が見つからない |
どれが正解ということはありません。資金額・引き取り手の有無・親の希望の3つで決まります。まずは費用ゼロでできる「引き継ぎノート」と「引き取り手との合意」から始めて、資金に余裕があれば信託を検討する、という順序が現実的です。
4. ペット保険と医療費の確認
高齢ペットの費用は、大半が医療費です。そして、ペット保険はほとんどが新規加入年齢に上限を設けています。すでに10歳を超えている場合、新規加入は難しいと考えてください。
確認すべきは次の3点です。
- すでに加入しているか(証券番号と補償割合をノートに記載)
- 更新年齢に上限はないか(終身継続できる商品かどうか)
- 持病が補償対象外になっていないか(加入後に発症した病気は対象、加入前からの持病は対象外が一般的)
保険に入れない場合は、ペット用の医療費を別口座に積み立てておくのが現実的です。高齢期には年10万〜30万円程度の医療費がかかることを想定しておくと、いざというときに治療の選択肢を狭めずに済みます。
お金の話までしておくべきなんだね。なんだか気が重いけど…
でもね、これを話しておくと親御さんの表情が変わることが多いんだ。「この子のことは心配しなくていい」って言えるのは、家族にしかできないことだから。
親が高齢になってから新しくペットを迎えたいと言われたら
「さみしいから犬を飼いたい」。80代の親からこう言われて、返答に困る方は少なくありません。頭ごなしに反対すると関係がこじれますし、そのまま賛成すると数年後に確実に問題が起きます。
おすすめは「反対」でも「賛成」でもなく、条件を一緒に考えるという第三の道です。
- 子犬・子猫ではなく、シニアの保護動物を迎える——寿命の見通しが立ち、しつけの負担も小さい。保護団体側も高齢の飼い主に高齢個体を勧めることがあります
- 散歩が不要な猫を検討する——親の体力低下に対応しやすい
- 引き取り手を先に決めてから迎える——これが最大のポイント。「もしものときは私が引き取る」と家族が先に決めておけば、安心して迎えられます
- 飼育費用の出どころを決めておく
ペットが高齢者の生活にもたらす良い影響は非常に大きいものです。迎えること自体を否定するのではなく、出口まで設計してから迎える。これが家族にできる最善のサポートです。
よくある質問
Q. 親が入院しました。今すぐ何をすべきですか?
A. 優先順位は、(1)ペットの安全確保(誰かが世話をしている状態を作る)、(2)かかりつけ動物病院と常用薬の把握、(3)フードの銘柄と量の確認、の順です。まずは短期のペットホテルや動物病院の預かりで時間を稼ぎ、その間に長期の方針を決めてください。入院が3か月を超えそうなら、恒久的な引き取り先の検討を始めます。
Q. 老犬ホームの費用はどのくらいですか?
A. 料金体系は「終生預託(一時金)」と「月額制」の2種類があり、犬種・体格・介護度によって大きく変わります。小型犬の終生預託で数十万円から、大型犬や医療ケアが必要な場合はさらに高額になります。必ず複数の施設で見積もりを取り、追加費用(医療費・トリミング・看取り費用)が含まれるかどうかを確認してください。
Q. ペット信託は誰に相談すればいいですか?
A. 弁護士、司法書士、家族信託を扱う専門家が窓口です。ただしペット信託の実績がある専門家はまだ多くありません。相談時には「ペット信託の設計実績があるか」を最初に確認してください。費用は契約書作成だけで15万〜30万円程度、全体設計では数十万円規模になることもあります。
Q. 高齢の犬でも里親は見つかりますか?
A. 若い個体より難しいのは事実ですが、シニア動物を専門に受け入れる保護団体や、同世代の落ち着いた動物を望む里親希望者は存在します。持病や服薬を正直に開示したうえで、時間をかけて探すことが結果的に良い縁につながります。急ぎで引き取り手が見つからない場合は、老犬ホームとの併用も検討してください。
Q. 親族の誰も引き取れない場合、行政は預かってくれますか?
A. 自治体の動物愛護センターは、原則として「飼えなくなったから」という理由での引き取りを行いません。動物愛護管理法の趣旨として、終生飼養が飼い主の責任とされているためです。まずは民間の保護団体、老犬ホーム、里親募集を当たってください。自治体によっては相談窓口や譲渡会の情報を提供してくれる場合があります。
Q. ペット可の高齢者施設はどう探せばいいですか?
A. 老人ホーム検索サイトの条件検索で「ペット可」を指定するのが基本です。ただし表示されていても、実際には「小型犬のみ」「1頭まで」「自力で世話ができること」など細かい条件が付くのが通常なので、必ず直接問い合わせて確認してください。数が限られるため、住み替えを考え始めた早い段階から探すことをおすすめします。
まとめ:いちばんの備えは「まだ元気なうちに話すこと」
親のペット問題には、実は明確な正解があります。親が元気なうちに、引き取り手と費用を決めておくこと。これだけです。
逆に言えば、倒れてから考え始めると、選択肢は一気に狭まります。里親は見つからず、老犬ホームは高額で、親族間では費用の話でぎくしゃくする。そしてペット自身が、一番つらい思いをします。
今日からできることを、費用の低い順に並べておきます。
- 費用ゼロ:ペットの引き継ぎノートを作る(30分)
- 費用ゼロ:「この子をどうしたいか」を親に聞く
- 費用ゼロ:引き取り手と費用負担を書面で合意する
- 数万円〜:負担付遺贈として遺言書に盛り込む
- 数十万円〜:ペット信託を設計する/老犬ホームを予約する
一番上の3つは、今度の帰省でできます。難しく考えず、まずはノートを1枚書いてみてください。
今度の週末、実家に帰ったら母と話してみる。柴犬のこと、ちゃんと決めておきたい。
それが一番の親孝行だよ。「この子のことは大丈夫」って言ってあげられたら、お母さんもきっと安心して治療に専念できるからね。










